老朽化した公共施設と、失われたにぎわい。 山陽小野田市を変えた「LABV」という選択
全国の自治体が頭を抱えている、公共施設の老朽化問題。
高度経済成長期に建てられた庁舎や公民館、福祉センターが一斉に更新時期を迎えています。しかし、人口減少や税収減に直面する地方都市にとって、その建替え費用を確保することは容易ではありません。
山口県山陽小野田市も、その例外ではありませんでした。築40年を超えた商工センターは老朽化が進み、早急な対応が求められていたものの、従来の手法では財政負担が重く、再整備計画は思うように進みませんでした。
そんな中、株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)が提案したのが、国内でも前例のない官民連携手法「LABV(Local Asset Backed Vehicle)」を活用したまちづくりプロジェクトです。
自治体が土地を現物出資し、民間が資金を出資して共同事業体を設立する——。この革新的なスキームは、単なる施設の建替えに留まらず、地域全体の価値を高める「面的再生」へと発展していきます。
本記事では、日本初のLABVを活用した山陽小野田市のまちづくりプロジェクトの全容を紹介し、YMFGが果たした役割、そしてこの取り組みが地域にもたらした経済的インパクトに迫ります。
1.築40年の商工センターと、1つの提案
山陽小野田市が所有する商工センターは、築40年を超え、老朽化が深刻な状況でした。早急な対応が求められていた中、費用面の課題に加え、公共施設としての設置目的そのものが曖昧になってきていたことから、市では施設の方向性を定めきれずにいました。
同じ頃、近隣にある山口銀行小野田支店も、店舗の老朽化に加え、地域との連携強化という課題を抱えていました。両施設とも周辺の高齢化率が高い地区に位置しており、エリア全体の活性化が求められていたのです。
従来であれば、それぞれが個別に課題解決を図るところです。しかし、当時の山口銀行小野田支店長は異なるアプローチができないかと株式会社 YMFG ZONEプラニング(YM-ZOP)へ相談。
「市と銀行の課題を『点』ではなく『面』で捉え、連携して解決できないか」
この支店長とYM-ZOPの発想をきっかけに、山陽小野田市長に対し、官民が連携する共同のまちづくりプロジェクトを提案しました。その提案の核となったのが、国内では事例のない官民連携手法「LABV(Local Asset Backed Vehicle:官民共同開発事業体)」です。
2018年、山口銀行とYM-ZOPは共同検討を開始。
2019年度には国土交通省「先導的官民連携支援事業」の採択を受け、事前調査を実施しました。調査の結果、商工センター跡地を活用したリーディングプロジェクトとして事業化の見通しがあること、民間事業者の参画が見込めることなどが示され、LABVによるプロジェクトの実現可能性があると結論付けられました。
2.全国初の「LABV」。自治体と民間がリスクを分かち合う新しいカタチ
2020年7月、山陽小野田市とYMFGは、事前調査の完了を受けて、プロジェクトを本格的な事業化に向けた検討ステージへ移行することを発表しました。その核となるのが、国内に前例のない官民連携手法「LABV」です。
では、従来のPPP/PFI手法とは何が違うのか。
そして、なぜ今、こうした新しいスキームが必要とされたのか。
次章では、その背景とLABVがもたらす革新性について紐解いていきます。
LABV(官民共同開発事業体)の定義と3つの特徴
LABVとは、自治体が保有する土地を現物出資し、民間事業者が資金を出資して共同事業体を組成する官民連携手法です。共同事業体が企画から実施・運営まで一貫して担い、官民が共にリスクと責任を分担します。
| LABVの3つの特徴 ●余剰資産と民間資金の活用 公共施設の集約化で生じる余剰資産を現物出資し、民間資金を組み合わせて事業化。人口減少期に遊休資産を有効活用しながら新たな価値を生み出す。 ●長期的な視点での官民関与 官民が共同出資によりパートナーとなり、35年間にわたって継続的に関与。短期的な利益追求ではなく、持続可能な地域づくりを実現。 ●金融機関の事業性評価による健全性確保 事業キャッシュフローを引当に融資を受けるため、金融機関の厳格な事業性評価を通じて採算性・安定性を担保。 |
従来のPPP/PFI手法では、自治体が施設整備費を負担するケースが一般的です。しかし、今回の山陽小野田市版LABVでは、自治体は土地を出資するのみで施設整備費の負担がありません。
また、市は出資者でありながら配当は受けず、地域への価値還元を優先する設計としました。LABV共同事業体の組織形態は合同会社とし、市は経営に関与しません。これにより、民間事業者の経営判断を尊重しながら、柔軟で機動的な事業運営が可能となりました。
産官学金の連携が実現した日本初のLABVプロジェクト
国内初となるLABVプロジェクトが山陽小野田市で実現できた背景には、産官学金の強固な連携体制がありました。
起点となったのは、山口銀行小野田支店長の「気付き」です。YM-ZOPとの連携により、市と銀行が抱える課題を個別に解決するのではなく「面」で捉えて連携する発想が生まれ、プロジェクトの扉を開きました。地域金融機関として、融資だけでなく地域課題の解決に踏み込む姿勢が、新しい官民連携のきっかけとなったのです。
YM-ZOPは、この提案を起点として事業化に向けた専門的なコンサルティングを展開しました。国内に前例のないスキームであるがゆえ、法的な整理、事業性の検証、リスク分担の設計など、高度な専門性が求められました。YM-ZOPは国土交通省のPPPパートナー(セミナーパートナー・個別相談パートナー)としての知見を活かし、市と共に道なき道を切り拓きました。2018年から2024年まで、事前調査、事業スキーム構築、事業者公募支援、実施支援と、各段階で一貫して伴走しました。
さらに、小野田商工会議所、山口東京理科大学といった地域の主要なステークホルダーが早期から参画しました。商工会議所はオフィス環境の整備と地域経済活性化の視点から、大学は学生寮の整備と産学連携の視点から、それぞれの立場でプロジェクトに関与。「金融」だけでなく「産業」「教育」が一体となったことで、単なる施設整備を超えた地域共創のプロジェクトへと発展しました。
2022年8月、山陽小野田LABVプロジェクト合同会社が正式に設立されました。代表社員には、優先交渉権者として選定された事業パートナーの代表企業の株式会社合人社計画研究所が就任。6社の事業パートナーのうち3社は山陽小野田市内の地域企業であり、建設、運営、維持管理という事業の核を地域が担う体制が整いました。山口銀行も融資や入居者として参画し、地域金融グループとしての総合力を発揮しました。
3.複合施設「A-SQUARE」の誕生と87億円の経済的インパクト
2024年4月、山陽小野田市の新たな拠点として複合施設「A-SQUARE(Aスクエア)」が開業しました。公共施設と民間施設が一体となった複合施設は、「多世代が集う交流・にぎわい拠点」をコンセプトに、地域の新しいシンボルとして機能しています。この施設の誕生がもたらした変化は、数値としても明確に現れています。
多世代が集う複合施設。公共と民間が「共創」することで生まれた
A-SQUAREには、公園通出張所、福祉センター、市民活動センター、地域職業相談室といった行政サービス機能が集約されました。これにより、市民は1つの場所で複数のサービスを受けられるようになり、日常づかいしやすい“ワンストップ拠点”へと進化しました。老朽化した施設の統廃合により新たに生まれた資源を活用し、機能的で快適な公共空間が実現しました。
一方、民間施設としては小野田商工会議所、山口銀行小野田支店、チャレンジショップ(テナント)などが入居し、ビジネスと生活の利便性を両立。特に注目されるのが、山口東京理科大学の学生寮の整備です。大学と地域の連携が強化され、若い世代の活気が日常的にまちに生まれる仕組みが整いました。学生と地域住民の交流を通じて、地域課題の解決に向けた産学連携プロジェクトの創出も期待されています。
施設の中心に配置された交流広場は、イベントや日常的な憩いの場として、多世代の交流を促進します。単なる通路ではなく、「立ち寄りたくなる」「誰かと出会える」——そんな滞在型の空間としてデザインされました。
この広場をハブとして、行政サービスの利用者、銀行や商工会議所への来訪者、学生、地域住民が緩やかにつながり、A-SQUARE 全体が“地域の交流拠点”として機能しています。
半径1km圏内で連鎖する「面的再生」。地価の上昇が示すプロジェクトの効果
このプロジェクトの大きな特徴は、単一施設の建替えではなく、半径1km圏内の複数拠点を連鎖的に開発する「面的再生」のアプローチを採用している点にあります。リーディング施設①(商工センター跡地のA-SQUARE)に加えて、リーディング施設②(山口銀行小野田支店跡地)、高砂用地など、周辺エリアの利活用を段階的に進める計画が進行しています。この戦略により、エリア全体の価値向上と持続可能な開発を実現しつつあります。
A-SQUAREの開業後、周辺に飲食店が誘致され、まちのにぎわいが生まれました。地価も山口県内で数少ない上昇地点となり、地域の資産価値向上が“数値”として裏付けられています。人の流れが変わり、まちの表情が変わり、そして経済が動き始めている。
こうした変化こそが、面的再生がもたらす実効性を物語っています。
YMFGが可視化した87億円の経済的インパクト
これらの効果を含め、YMFGが独自手法で算出した「地域との経済的インパクト」は87億円に達しました。YMFGでは、地域再生プロジェクトを時系列に沿って4つの要素に分けて測定しています。
まず、企画・調整段階では、ステークホルダーの無償活動の価値(エンパワメント価値)を算出。
次に、事業形成段階では、計画発表や視察による経済効果(プロモーション効果)を測定。
さらに事業化段階では、基準地価への影響や雇用創出額など(地域価値向上効果)を計算。
そして事業化後は、誘発された商業施設の建設投資など二次波及効果(地域経済活性化効果)を評価しました。
これら4つの要素を積み上げた結果が87億円。単なる施設整備の枠を超え、地域全体へどれほど大きな価値が広がったのか——その実態を“数値”として可視化した点に、このプロジェクトの大きな意義があります。
株式会社YMFG ZONEプラニング 藤岡 夏海
国内初となるLABV手法を活用した官民連携により、官民が共創する持続可能なまちづくりに貢献することができました。
2024年4月のA-SQUARE開業によって地域に新たなにぎわいが生まれ、2025年9月にはビアナイトフェスとレノファ山口戦のパブリックビューイングが同時開催されました。こうした取り組みを含め、複数事業地での連鎖的開発によるエリア全体のにぎわい再創出への期待が高まっています。
本プロジェクトでは、提案・事業構築・金融支援を通じて事業の蓋然性を高めつつ、地域のステークホルダーと連携してにぎわい創出に取り組んできました。
今後も地域と同舟共命でまちづくりを進めていきます。
4.全国から注目される「山陽小野田モデル」
山陽小野田市のLABVプロジェクトは、国内初の取り組みとして、国からも高い評価を受けています。
2023年2月には、内閣府「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」において、「2022年度地方創生SDGsの達成に向けた官民連携取り組み事例」の最上位の賞である「内閣府地方創生推進事務局長賞」を受賞。
さらに2023年3月には、内閣府特命担当大臣(地方創生担当)より、「地方創生に資する金融機関等の『特徴的な取組事例』」として表彰されました。
また、この取り組みは国の政策にも影響を与えました。
LABV手法は、政府の「骨太の方針2023」や内閣府が公表する「PPP/PFI推進アクションプラン」、「事例から学ぶLABVの活用に向けた解説書」において、人口減少期の地域における官民連携による有効な手法として位置付けられています。
加えて、地域金融による地域経済に貢献する力(=地域金融力)への期待が高まる中、2025年12月に金融庁が取りまとめた「地域金融力強化プラン」では、官民双方へ幅広いネットワークを有する地域金融機関が主導するまちづくりスキームとしても紹介されました。
このプロジェクトは、国内初のLABV事業として実現したこと、学生寮との複合化や連鎖的事業を組み込んだ効果的な事業形成、産官学金のキーマンが連携してPPPノウハウの人材育成を進めながら地域企業も参画した点が、先導性として評価され、今後の人口減少地域における官民連携事業の「モデルケース」として位置づけられています。
受賞後、全国の自治体や金融機関から視察や問い合わせが相次いでいます。
YMFGは三都(山口・広島・北部九州)エリア全体で、地域共創プロジェクトを展開しており、LABVスキームの導入を検討する自治体や地域金融機関などからの相談やコンサルティング依頼も増加。
YM-ZOPが培ったノウハウは、三都を超えて全国の地方都市の課題解決に活かされ始めています。
5.35年間のコミットメント。持続可能なまちづくりへの道筋
A-SQUAREの開業は、プロジェクトの終わりではなく、新たなスタートです。施設の活用と並行して、周辺エリアの利活用検討も継続的に進められています。LABV共同事業体による35年間という長期の運営期間を通じて、エリアマネジメントの視点や大学との連携も取り入れながら、地域関係者と協力し、地域全体のにぎわいと持続可能なまちづくりを支援していきます。
YMFGは、パーパス「地域の豊かな未来を共創する」の実現に向け、地域が抱える多様かつ複雑な課題に対し、金融の枠を超えて価値を提供する「地域課題解決のプラットフォーマー」への進化を目指しています。
山陽小野田市のLABVプロジェクトにおいてYMFGは、金融機関として融資を行うだけではなく、構想段階からYM-ZOPによるコンサルティングを提供したり、山口銀行が複合施設に支店を構える入居者として参画したりと、地域金融グループの総合力を発揮できた実践例となりました。
人口減少、公共施設の老朽化、財政難——。
これらは全国の地方都市が共通して抱える課題です。
山陽小野田市で実証されたLABVモデルは、こうした難題に立ち向かう“新たな解決策”として、今、全国へと広がり始めています。
地域の豊かな未来を共創する——その想いを胸に、YMFGは次のプロジェクトへと歩みを進めています。