未来を創る起業家たちへ。山口発スタートアッププログラム『Mirise』が描く地域共創の物語

未来を創る起業家たちへ。山口発スタートアッププログラム『Mirise』が描く地域共創の物語

地域金融機関が、起業家育成に本格的に乗り出す──。

 

株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)および子会社の株式会社YMFG ZONEプラニング(YM-ZOP)は、2023年度から山口県の「スタートアップ起業家育成事業」を受託し、学生/起業家に向けたアクセラレーションプログラム『Mirise~ミライズ~』を展開。3ヶ年にわたり起業家育成事業を手がけてきました。高校生から起業家候補までを対象とした一貫型の育成システムを構築し、株式会社ガイアックスや株式会社ゼロワンブースターなど全国レベルの専門機関と連携。地域企業や学生、投資家など多様なプレイヤーが参画するエコシステムづくりを推進しています。

 

2026年2月には、国指定重要文化財「旧山口県会議事堂」で2025年度の最終発表会が開催され、歴史ある地で新たな挑戦が披露されました。本記事では、地域金融機関がスタートアップ支援に踏み出した背景と、その取り組みの地域経済への波及効果をご紹介します。

1.地域金融機関が挑む「起業家育成エコシステム」構築の戦略的意義

地域経済の縮小、既存産業の成熟──。地域金融機関にとって、新たな産業や雇用を地域から生み出すことは喫緊の課題です。起業家育成やスタートアップ支援は、地域に深く根ざした金融機関だからこそ担える、未来への投資ともいえるでしょう。

こうした認識の下、YMFGおよびYM-ZOPは2023年度から山口県の「スタートアップ起業家育成事業」を受託し、『Mirise~ミライズ~』を展開。学生向けの新規事業開発体験プログラムと、起業家向けのアクセラレーションプログラムという2本柱で、山口県内からロールモデルとなるスタートアップの創出を目指しています。

 

特筆すべきは、単なる育成講座に留まらない設計思想です。地域企業や起業家、ビジネスリーダー、学生、投資家、大学・支援機関など多様なプレイヤーの参画を促し、学びの場であると同時に仲間づくり・ネットワークづくりの場として機能する「エコシステム」そのものを構築しようとしている点にあります。

2.学生から起業家まで。『Mirise』が創る包括的育成システム

『Mirise~ミライズ~』──「未来」と「Rise(上昇)」、さらに将来の姿を意味する「未来図」を重ねた造語です。自らの未来を切り拓く参加者と、その挑戦を通じて地域の未来を共に創る。そんな想いが込められています。

では、どのような仕組みで起業家精神を育んでいるのでしょうか。

7ヶ月間の伴走支援プログラム

Miriseは、学生向けと起業家向けの2つのプログラムで構成されており、それぞれ約7ヶ月間にわたる伴走支援を実施しています。

学生向け新規事業開発体験プログラムの対象は、山口県内の高校生から大学院生まで。2025年度は高校生4名、大学生11名、大学院生1名の計16名が参加しました。8月から10月にかけてのBasicコースでは、学生自身の興味・関心をもとに事業を考案し、実際に立ち上げるまでの過程を体験。続く10月から2月のAdvanceコースでは、企業の事業課題に取り組みながら起業家マインドを磨き上げます。Advanceコースには協力企業とのインターンシップも組み込まれており、教室の外に広がる実践の場が用意されている点が特徴です。

一方、やまぐちアクセラレーションプログラムは、既にビジネスプランを持つ起業家が対象。アイデア段階からプロダクトリリースを目指すインキュベーションコースには2025年度10名が、リリース後のスケール化を図るPoC支援コースには同年度2名が参加しています。講義やワークショップに加え、個別メンタリングによる伴走支援を受けながら、自身のビジネスを磨き上げ、ピッチコンテストなどへの出場を通じて支援者とのネットワーク構築や資金調達の実現を目指します。

全国レベルのパートナーシップ「ガイアックス」「ゼロワンブースター」

Miriseの特徴のひとつが、東京を拠点とする2つの専門機関との連携です。地域にいながら全国レベルのスタートアップ支援ノウハウに触れられる環境を、それぞれ強みを活かした役割分担によって実現しています。

 

学生向けプログラムの運営協力を担うのが、1999年創業のスタートアップスタジオ・ガイアックス。70社以上への投資実績と複数のIPO実績を持ち、ソーシャルメディアからシェアリングエコノミー、web3・DAOまで多領域にわたる事業を展開する企業です。Miriseとの連携は2023年度から3年連続。参加した学生からは「さまざまな意見を出し合うことで非常にたくさんの意見が出て、興味深かった」といった声が寄せられています。

 

起業家向けアクセラレーションプログラムの専門支援を担当するのが、2012年設立のゼロワンブースター。「事業創造の力で世界を変える」をミッションに掲げ、起業家から大企業、大学、行政まで幅広いステークホルダーへの支援実績を持っています。地域の事業創造支援で培った知見を活かし、山口県の特性に合わせたプログラム設計を支えている存在です。

3.参加者の成長ストーリーと地域への波及効果

プログラムの真価は、参加者の変化に表れます。2025年度の最終発表会では、学生向け・起業家向けそれぞれの参加者総勢16名が、7ヶ月間の集大成となるビジネスプランを披露し、その中から最優秀賞受賞者2名が選定されました。

高校2年生が企業のDX課題に挑んだ7ヶ月間

学生向けプログラムで最優秀賞を獲得したのは、山口県立防府商工高等学校2年の平岡隼翔さん。山口県周南市に本社を置く株式会社中特ホールディングスの協力のもと、「工場搬入受入管理DXプロジェクト」に取り組みました。

「参加して本当に良かったです。学生では得難い、企業の課題に挑む貴重な体験ができました」と平岡さん。「企画立案やプレゼンスキルが磨かれ、一回り成長した実感があります。将来起業を志している私にとって、非常に大きな糧となる経験でした」と振り返ります。

萩市から生まれた次世代リーダー育成プログラム

起業家向けプログラムの最優秀賞に選ばれたのは、株式会社ラストリーの才野圭太さん。山口県萩市を舞台にした次世代リーダー・経営者候補向けの研修プログラム「SHOKA-SONJUKU」の事業化に取り組みました。

才野さんは「Miriseに参加したことで、普段は接点を持てない事業家の方々と繋がることができました。事業を創り出していくうえで、非常に有意義な機会でした」とプログラムの価値を語ります。

4.地域経済への波及効果と次なる展開

2026年2月14日、旧山口県会議事堂。明治期に建てられた国指定重要文化財を舞台に、Miriseの最終発表会が開催されました。プログラム参加者たちが7ヶ月間で磨き上げたビジネスプランを披露し、株式会社ゼロワンブースターホールディングス代表取締役CEOの鈴木規文氏による特別講演「歴史から見えてくる地域起業の成功モデル」も行われるなど、歴史ある地にふさわしい象徴的なイベントとなりました。

 

起業家、学生、地域企業、投資家──多様なプレイヤーが集い、繋がりを重ねるなかで、山口県発のスタートアップエコシステムは着実にかたちを成しつつあります。融資にとどまらず、地域から新たな産業と雇用を生み出す仕組みそのものをつくる。Miriseは、地域金融機関だからこそ可能な長期的視点に立った挑戦の象徴といえるでしょう。山口から全国へ、そして世界へ。次の起業家たちの物語は、もう始まっています。

 

株式会社YMFG ZONEプラニング
課長(当時) 三村 晋也

地域金融機関には、持続的に地域経済を支えていく使命があります。しかし近年、地域経済の縮小や既存産業の限界といった課題に直面するなかで、新たな産業や雇用を生み出すスタートアップを地域で育てることは、地域の未来を支え、私たち自身の持続的成長にも繋がる重要な取り組みだと考えています。
Miriseは、山口県の起業家やそれを取り巻く産官学金のあらゆる支援者が、ともに同じ方向を目指して進んでいくための基盤にしたい。そんな願いを込めて取り組んでいます。地域でのスタートアップ創出には多くのハードルがありますが、将来的には自然発生的にスタートアップが、そして新たな産業が次々と生まれる、山口県独自のエコシステムをつくり上げたいと考えています。