地域企業の課題と、スタートアップの可能性。下関から始まる『SAS』という共創

地域企業の課題と、スタートアップの可能性。下関から始まる『SAS』という共創

人口減少、後継者不在、新規事業の創出――全国の地方都市は今、さまざまな課題を抱えています。地域企業にとって、従来のビジネスモデルだけでは乗り越えられない壁があり、新しい視点や技術を持つパートナーが必要とされています。

一方で、地方での事業展開を模索するスタートアップも数多く存在します。地域には未解決の社会課題が山積しており、そこには大きなビジネスチャンスが眠っています。しかし、地域企業とスタートアップが出会い、具体的な協業へと進むきっかけは、決して多くはありませんでした。

 

株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)は2023年、この課題に正面から挑む取り組みを開始しました。それが「Shimonoseki Add-venture Summit(SAS)」です。SASは、地域とスタートアップが本気で地域産業の未来を考え、行動につなげるための地域共創サミットです。単なる交流イベントではなく、具体的なビジネス連携を生み出す「アクション志向」の場として設計されています。

過去2回の開催で累計約1,800名が参加し、約700件の商談が生まれました。そして2025年7月30日、海峡メッセ下関で開催された第3回は、過去最大規模での開催となりました。本記事では、日本を代表する起業家・経営者が集結し、地域企業とスタートアップが本気で向き合ったSASの全容をご紹介します。

1. なぜ「下関」で、地域共創サミットなのか

地域企業は、人口減少や市場縮小により、従来のビジネスモデルだけでは成長を維持することが難しくなっています。新規事業の創出や新しい技術・サービスの導入において、外部のパートナーとの連携が不可欠となってきています。一方で、地方での事業展開を模索するスタートアップも数多く存在します。地域には未解決の社会課題が山積しており、スタートアップにとってはビジネスチャンスの宝庫です。

 

しかし、こうした地域企業とスタートアップが出会い、具体的な協業へと発展する機会は限られていました。

YMFGは、地域金融機関として、融資や金融サービスの提供に留まらず、地域企業が抱える経営課題そのものに向き合ってきました。パーパスである「地域の豊かな未来を共創する」を体現し、「地域課題解決のプラットフォーマー」への進化を目指す中で、地域企業とスタートアップが出会い、協業を生み出す「場」づくりに着手しました。こうして生まれたのがSASです。

なぜ「下関」なのか
●YMFGの本拠地
山口フィナンシャルグループの本店所在地は山口県下関市。地域金融機関として、地元から地域共創の取り組みを始める意味を持つ。
●海峡メッセ下関という大規模会場
1,000名規模のイベント開催が可能な施設。セッション、ピッチ、ブース出展を展開できる。
●三都(山口・広島・北部九州)への展開拠点
YMFGの営業エリアである三都エリアを繋ぐ立地。

2. 「本気で考え、行動する」——累計1,800名、商談700件が示す成果

SASの正式名称は「Shimonoseki Add-venture Summit」。コンセプトは「地域の産業活性化を地域とスタートアップが本気で考え、行動するための地域共創サミット」です。

単なる交流イベントではなく、具体的なビジネス連携・協業を生み出す「アクション志向」の場として設計されています。その証が、過去2回の開催で生まれた約700件という商談件数です。

3つのコンテンツが生み出す「出会い」と「対話」

SASは、「セッション」「スタートアップピッチ」「ミートアップ」の3つのコンテンツで構成されています。

 

セッションでは、「地域創生×スタートアップ」をテーマに、日本を代表する起業家や経営者、有識者によるパネルディスカッションが行われます。スタートアップピッチでは、地域課題の解決に資するビジネスモデルを持つスタートアップが、自社のプロダクトやサービスをプレゼンテーションします。そしてミートアップ(ブース出展・交流)では、登壇企業のブースで直接対話し、具体的な商談につながる機会が提供されます。

 

参加者は自分の関心に応じてセッションやブースを自由に選択でき、能動的に価値を得られる設計となっています。学びと対話、そしてビジネスマッチング——SASは、この3つの要素を一体的に提供する場となっています。

開催実績——数字が示す「本気度」

SASは2023年1月の第1回開催以来、着実に成長を続けています。2024年6月には第2回を開催し、過去2回の累計参加者数は約1,800名、商談件数は約700件に達しました。

単なる「交流」ではなく、具体的なビジネスにつながる「出会い」が生まれています。この数字こそが、SASが「本気で考え、行動する場」として機能している証です。

3. 過去最大規模へ——2025年版SASが描いた「地方の成長戦略」

2025年7月30日、海峡メッセ下関で開催された第3回SASは、過去最大規模のイベントとなりました。参加者数は1,000名に達し、第1回・第2回を上回りました。

第3回の特徴は、日本を代表する起業家・経営者が集結し、「地方で非連続な成長を実現する」という本質的なテーマに挑んだことでした。オープニングからクロージングまで、地方の成長戦略、地域企業の経営論、スタートアップとの協業、さらには事業承継まで、多角的な視点から地域の未来について語られました。

日本を代表する起業家や有識者が語った「地方の可能性」

オープニングセッションには、小澤隆生氏(BoostCapital代表/ヤフー元社長)と田中泉氏(元NHKアナウンサー/キャスター)が登壇しました。小澤氏は、自ら起業して楽天やヤフーへの事業売却を経験し、楽天イーグルス球団やPayPayの立ち上げ、ヤフーのEC事業責任者を歴任するなど、日本のインターネットビジネスを牽引してきた人物です。セッションのテーマは「非連続な成長を地方で実現するためには」。小澤氏は自身の起業やM&Aの経験談を交えながら、地域経済活性化におけるM&Aの可能性や、AI時代だからこそ求められる人間力の重要性を語りました。都市部の最前線でビジネスを牽引してきた経験を持つ小澤氏だからこそ提示できる、地方ならではの成長戦略は、参加者に強い示唆を与えました。

 

クロージングセッションには、南場智子氏(DeNA代表取締役会長)、朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)、小城武彦氏(九州大学ビジネス・スクール教授)が登壇。テーマは「ローカルに求められるこれからの経営とは」です。スタートアップから大企業まで、経営に関する幅広い経験や知見を持つ3者が、不確実性の高い時代を生き抜く地域企業の経営戦略について、それぞれの実体験を基に徹底的に掘り下げました。多くの参加者が登壇者3名の話に熱心に耳を傾け、学生からも積極的に質問が寄せられるなど、熱量の高いセッションとなりました。

地域企業自らが語った「スタートアップ連携のリアル」

今回のSASでは新たな試みとして、地域企業によるセッション「地域企業のスタートアップ連携」が初めて実施されました。登壇したのは、スタートアップとの協業実績を持つ地域企業3社(大晃ホールディングス、スターフライヤー、むべの里光栄)です。モデレーターは、地域発のベンチャーファンドを運営するベータ・ベンチャーキャピタルの林龍平氏が務めました。

スタートアップとの出会いから連携実現までの道のり、そして協業によって生まれた成果について、事業領域が異なる3社それぞれの視点から「リアルな協業の形」が語られました。地域企業の経営者自らが語る具体的な事例は、参加者にとって大きな学びとなりました。

「地域企業のスタートアップ連携」登壇者
◯ベータ・ベンチャーキャピタル 代表取締役パートナー 林龍平氏
◯大晃ホールディングス 代表取締役社長執行役員 木村晃一氏
◯スターフライヤー 執行役員・イノベーション推進本部長 後藤洋氏
◯社会福祉法人むべの里光栄 理事長 隅田典代氏

もう一つの新企画が、「新しい事業承継の形」をテーマにしたセッションです。YMFGキャピタルは2019年から日本初のSearchファンド事業に取り組み、これまでに累計13社の事業承継を実現しています。実際に地域企業の後継者としてキャリアを歩む3者(吉開のかまぼこ、アラト、ひびき精機)が登壇しました。モデレーターは、経営戦略を専門とする早稲田大学大学院経営管理研究科長の池上重輔氏です。

単なる事業の引継ぎに留まらない「新しい事業承継の形」とはどういうものか、成功に向けて欠かせない要素、そして地域にもたらす可能性の大きさについて議論が交わされ、多くの地域企業が直面する後継者問題に対する、新たな選択肢が示されました。

「新しい事業承継の形」登壇者
◯早稲田大学大学院経営管理研究科長 池上重輔氏
◯吉開のかまぼこ 代表取締役社長 林田茉優氏
◯アラト 代表取締役 赤塚亮太氏
◯ひびき精機 代表取締役 松山功氏

全国から選ばれた30社のスタートアップと過去最大の後援体制

参加したスタートアップは30社。地域企業の課題解決に資する事業を展開する全国のスタートアップ、そしてYMFGエリア(山口・広島・北部九州)にゆかりのある企業が集まりました。事業分野は、製造業DX、HR tech、物流tech、データ活用など多岐にわたります。

 

ピッチ会場では、全国各地から集まった20社のスタートアップが、地域関係者に対して自社のサービスや技術についてプレゼンテーションを実施しました。ブース出展会場では、スタートアップ30社とスポンサー企業8社の計38社がブースを構え、1日を通して参加者との対話が活発に行われました。サービスの利用や連携の可能性など、具体的な協業を見据えた交流が随所で生まれました。

後援体制も過去最大となり、スポンサー数も増加しました。

4.YMFGの総合力——SASを支える「産官学金」プラットフォーム

SASの主催は、YMFG本体、YMFGキャピタル、YMFG ZONEプラニングの3社。YMFG本体は、三都(山口・広島・北部九州)を中心に約4,000名、全国300店舗以上のネットワークを持つ地域金融グループです。

YMFGキャピタルは、「金融(エクイティ)の力で地域を変革する原動力となる」というミッションの下、スタートアップ投資と事業承継・成長支援投資の2つの軸をもって投資活動に取り組んでいます。

YMFG ZONEプラニングは、地域マネジメント事業を専門とし、官民連携プロジェクトの企画・運営を手がけています。

3社の専門性を掛け合わせることで、SASという大規模かつ実践的なプラットフォームを実現しています。

 

またSASは、YMFG単独の取り組みではなく、共催のベータ・ベンチャーキャピタルをはじめ、全国のベンチャーキャピタルや金融機関と連携する「オープンプラットフォーム」モデルです。後援には、13の自治体、8の大学、多数の金融機関やベンチャーキャピタルが名を連ねており、地域を超えた広がりを見せています。

 

株式会社YMFGキャピタル
シニアマネージャー 平原 遼

地域を取り巻く環境が一層厳しさを増す中、YMFGは、スタートアップとの共創をはじめとするオープンイノベーションが、地域の持続的な成長に不可欠であると考えていました。
SASの第1回を開催した2023年当時、東京では多くのスタートアップイベントが開催され、事業会社がスタートアップなどの新しいサービスや技術に触れる機会にあふれている一方で、地方、とりわけ山口ではそのような機会が少なく、地域にとってスタートアップはまだまだ遠い存在でした。
YMFGキャピタルは、2017年からスタートアップ投資を本格化し、日々多くのスタートアップと向き合う中で、地域との親和性の高いサービスを中心に地域展開を進めてきました。その一方で、スタートアップの存在や可能性が、必ずしも地域に十分伝わっていないという課題も感じていました。より多くの地域の皆さまにスタートアップを知っていただき、共に取り組むことで、課題解決や事業成長に繋げていただきたい、そうした思いから立ち上げたのがSASです。
過去3回の開催を通じ、参加者は年々増加し、会場を能動的に回遊する姿も多く見られるようになりました。サービス導入や共創案件も数多く生まれるなど、イベントを通じた具体的な成果も着実に広がっています。また、パートナー様やスポンサー様のご支援を受けながら、本イベントを継続的に開催することができています。
近年では、他地域の方から「SASをベンチマークに新たにイベントを立ち上げます」といった声も寄せられるようになり、SASの取り組みは三都を超え、他地域へと広がりを見せています。
一方で、スタートアップとの具体的な連携やサービス導入については、さらに広げていく余地があると考えております。
今後もSASを継続的に開催し、イベントを通じて生まれた繋がりから、新たな価値が生まれ続ける環境づくりに取り組んでいきます。

5. 地域の未来は、ここから動き出す

2023年に開催した第1回から、2025年の第3回まで、参加者数、登壇企業数、後援数のいずれも拡大を続けており、SASは回を重ねるごとに進化してきました。

地域企業にとっては、新しい技術やパートナーと出会う機会に。スタートアップにとっては、地方での事業展開のきっかけに。学生や若年層にとっては、地域でのキャリアの選択肢を知る機会に。SASは、立場や世代を超えた多様なステークホルダーが集う場となっています。イベント終了後に実施した来場者アンケートでは、満足度96%、次回参加意向は99%と高い評価が得られました。また、イベント参加前後における来場者の「スタートアップへの興味」は46%から89%へ大きく増加。成約事例も多数生まれており、SASが地域におけるスタートアップとの連携に向けたマインド醸成と実際のアクション創出に貢献していることがうかがえます。

 

YMFGは、パーパスである「地域の豊かな未来を共創する」の実現に向け、地域課題解決のプラットフォーマーとして、地域経済の持続的成長を支えます。「人と人、企業と企業を繋ぐ」——地域の未来を、地域とともにつくる取り組みを、YMFGは続けていきます。