若き経営者が、地域企業の未来を繋ぐ。YMFGが挑んだ日本初の「Searchファンド」

若き経営者が、地域企業の未来を繋ぐ。YMFGが挑んだ日本初の「Searchファンド」

全国の中小企業が直面する深刻な「後継者不在問題」。帝国データバンクの調査によると、後継者不在率は全国で約5割に達しています。経営者の高齢化が進む中、事業を継続したいという想いがあっても後継者が見つからず、やむなく廃業を選択する企業は少なくありません。長年培われてきた技術やノウハウ、社員の雇用、取引先との信頼関係――廃業という選択は、これら全ての逸失を意味します。

 

株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)は、この構造的課題に対する新たな解決策として、2019年に日本で初めて「Searchファンド」事業に取り組みました。Searchファンドとは、経営者を志す人材(サーチャー)が、投資家から活動資金の投資を受けながら、自ら中小企業の承継先を探索し、企業の株式取得と経営参画を目指す、アメリカ発祥の投資モデルです。

従来のM&Aが「企業」を起点に譲渡先を探すのに対し、Searchファンドは「経営者候補」であるサーチャーを起点とし、承継後はサーチャー自身が経営を担う点に特徴があります。

 

YMFGは、日本で初めて「Searchファンド」への投資を通じた取り組みを推進し、2020年の第1号案件以降、累計13社の事業承継を実現してきました。本記事では、Searchファンドによる事業承継の具体的な事例と蓄積されたノウハウ、そして北九州市との官民連携についてご紹介します。

1.「Searchファンド」とは何か。経営者候補を起点とした新しい投資モデル

「後継者がいない」という課題に対して、これまではM&Aによる第三者への譲渡が一般的な選択肢でした。しかし現実には、譲渡先が見つからない、企業文化や経営方針が合わない、社員の雇用が将来にわたって守られるか不安が残る――といった理由から、M&Aに踏み切れない経営者も少なくありません。

 

Searchファンドは、こうした課題に対する新しいアプローチです。「企業」ではなく「経営者候補」を起点とし、サーチャー自身が承継したい企業を探索し、対話と協議を重ねながら事業承継を実現します。経営者としての熱意と覚悟を持った人材が主体的に企業を承継することで、承継後の企業成長をより確実なものにする仕組みと言えます。

1984年、アメリカで誕生した投資モデル

Searchファンドは、1984年にアメリカで誕生した、経営者を志す個人を起点とする投資モデルです。一般的には成長企業の買収を目的とするケースが多い中で、YMFGのSearchファンドは後継者不在に悩む地域の中小企業の事業承継に特化している点に特徴があります。

 

サーチャーは、ファンドから活動資金の投資を受けながら承継企業の探索活動(サーチ活動)を行い、適切な企業が見つかれば、株式取得資金の投資を受けて事業承継を実現します。承継後は自らが企業経営を担い、事業成長と企業価値向上を図ります。ファンドの出口については、第三者への譲渡が一般的ですが、YMFGのSearchファンドでは、サーチャー自身がファンドから株式を取得すること(MBO)を推奨しています。

YMFGが日本初の挑戦に踏み切った理由

YMFGが日本で初めてSearchファンド事業に取り組んだのは2019年のことです。YMFGエリア(山口・広島・福岡)を中心として地域密着型の金融サービスを提供してきたYMFGにとって、地域企業の後継者不在問題は看過できない課題でした。従来の融資や財務支援だけでは解決が難しい、構造的な経営課題に対応するため、YMFGは新たな一歩を踏み出しました。

 

子会社である山口キャピタル(現YMFGキャピタル)は、「YMFG Searchファンド投資事業有限責任組合(1号ファンド)」を設立。YMFGエリア(山口・広島・福岡)を主な投資対象エリアとするこのファンドを通じて、日本初のSearchファンド事業への挑戦をスタートしました。

 

都市部の優秀な人材に「経営者」というキャリアパスを提示すると同時に、地域企業が抱える事業承継課題を解決する。2つの目的を同時に実現する取り組みがここから始まりました。

 

YMFGのSearchファンドの3つの特徴

●経営者候補(サーチャー)を起点とした投資モデル
優秀な経営者候補が承継先企業を探索。人材と企業の相性を重視した新しい事業承継の形。
●サーチ活動から経営まで、長期的な伴走支援
ファンドがサーチャーの活動資金(報酬・諸経費)を投資し、承継企業探索を支援。株式取得後も経営サポートを継続し、中長期的な企業成長を目指す。
●最終的にはサーチャー自身が株式を取得(MBO)することを推奨
ファンドが保有する株式を、将来的にサーチャー自身が取得することを推奨。経営者としての本気度と責任感を担保する仕組み。

2.日本初の挑戦。2020年、北九州市で実現した第1号案件

2020年2月、YMFG Searchファンドは、日本初となる第1号案件を実現しました。承継先企業は、北九州市に本社を置く、創業64年(当時)の株式会社塩見組です。

この事業承継の背景には、約1年間にわたる対話と信頼関係の構築がありました。後継者不在に悩む経営者と、経営者を志す人材との出会いが、どのようにして実を結んだのか――。日本初のSearchファンドによる事業承継を行った塩見組のストーリーをご紹介します。

創業64年、株式会社塩見組の決断

株式会社塩見組は、北九州市に本社を置く土木工事業者です。基礎杭打ち工事業として創業し、西日本エリアを中心に、大型基礎杭打ち工事や海上改修工事を手掛けてきました。

約20年にわたり前社長が経営を担ってきましたが、高齢となり後継者不在という課題に直面します。社員42名の雇用を預かる立場で、会社の存続と社員の雇用維持を最優先に考えた社長は、Searchファンドの活用を検討し始めました。

サーチャー渡邊謙次氏との出会い

そんな社長の前に現れたのが、サーチャーである渡邊謙次氏でした。渡邊氏は中小企業の経営経験があり、海外MBA保有者でグローバル感覚を備えた人材です。渡邊氏は塩見組を成長軌道に乗せ、地域の中核企業へと成長させたいという明確なビジョンを社長に訴えました。

協議を重ね、約1年間にわたる対話の中で、社長は渡邊氏の熱い想いや確かな覚悟に触れました。そして塩見組の新しい未来を託す最善の選択肢として、全株式の譲渡を決意しました。こうして、2020年2月、渡邊氏が塩見組の代表取締役に就任し、日本初のSearchファンドによる事業承継が実現しました。

3.官民連携で加速する事業承継支援。北九州市との連携協定

1号ファンドでの実績を着実に積み重ねる中、YMFGは次のステージへと歩みを進めました。2022年2月、全国展開を見据えて地域金融機関等と協働した「地域未来共創Searchファンド(2号ファンド)」を設立。さらに2023年9月には、北九州市との連携協定を締結し、官民一体となった事業承継支援の体制も構築しました。

地域金融機関、自治体、そして全国規模のネットワークが連携することで、Searchファンドは新たな局面を迎えています。

全国展開へ。「地域未来共創Searchファンド」の設立

これまでの事業承継実績を踏まえ、YMFGは2022年2月、全国各地域の事業承継課題を解決することを目的として、「地域未来共創Searchファンド(2号ファンド)」を設立。1号ファンドがYMFG主導で始動したのに対し、2号ファンドは地域金融機関等との連携強化により全国エリアでの事業承継課題の解決に取り組んでいます。

 

YMFG傘下の銀行の他、複数の地域金融機関等と協働してファンドを組成しました。中小企業基盤整備機構や大和証券グループ本社、ワールドホールディングスからも出資を受け入れており、ファンド規模は約55億円に達しています。

YMFGキャピタルは、「地域課題解決型Searchファンド」のフロントランナーとして、地方の中小企業の事業承継課題の解決と、地域企業の持続的成長を目指して活動しています。2号ファンド設立以降、約10名のサーチャーが活動資金の投資を受けて活動しており、投資実績を着実に積み重ねています。

全国初となる自治体とのSearchファンド連携協定

2023年9月、YMFGの子会社である山口キャピタル(現YMFGキャピタル)は、北九州市と「中小企業の事業承継推進に関する連携協定」を締結しました。自治体とSearchファンド事業者の連携協定締結は、全国初の事例です。この協定の目的は、Searchファンド事業を推進するYMFGキャピタルと北九州市が連携し、後継者不在に悩む北九州市内の中小企業へのサーチャーによる事業承継を推進することです。企業の事業承継課題の解決、および承継先企業のさらなる成長・発展を図り、地域経済の活性化を目指しています。

 

連携協定には3つの柱があります。第一に、Searchファンドを活用した事業承継の周知です。北九州市とYMFGキャピタルの共催による事業承継セミナーの開催や、北九州市内の中小企業等の経営者を目指す後継者候補人材の発掘を行います。第二に、候補企業の選定です。双方が保有する後継者不在の企業情報を共有し、事業承継の確度を高めます。第三に、候補企業とサーチャーとの事業承継の促進です。YMFGキャピタルが支援するサーチャーに候補企業をお繋ぎするとともに、北九州市が市内におけるサーチャーの調査活動費を補助します。自治体と金融機関が一体となって後継者不在問題に取り組む、画期的な官民連携のモデルです。

 

株式会社YMFGキャピタル 取締役 藤本孝

Searchファンド推進にかかる全国初の連携協定は、事業承継課題を「地域の持続性を左右する重要なテーマ」と捉え、地域企業の存続と成長を通じて地域活性化を実現していこうとする、YMFGキャピタルと北九州市の課題認識と将来像が一致したことから生まれました。
本協定では、自治体と金融機関がそれぞれの強みを活かし、役割分担しながら一緒に汗をかいて取り組む点に大きな意義があります。セミナーや勉強会の開催といった地道な活動を積み重ねることで、地域の事業者の皆さまに官民連携ならではの安心感を届けることができ、実際にSearchファンドの広がりも感じています。
北九州市は、国内初のSearchファンドによる事業承継が生まれた地域でもあります。こうした背景を踏まえ、北九州市内企業の承継実績を積み重ねつつ、他地域への展開も目指していきます。

4.広がる事例。広島・岡山、そして地方公務員出身サーチャーの誕生

第1号案件の成功を契機に、Searchファンドモデルは地域に浸透し始めました。2020年度は4社の事業承継が同時に実現し、その後も山口・広島・北九州を中心に、岡山など周辺エリアへも展開しています。

地域中核企業の事業承継から、成長企業のバリューアップ支援、さらには地方公務員出身のサーチャーによる承継まで、多様な事例が次々と生まれ、Searchファンドの可能性は、着実に広がっています。

全国初、地方公務員出身のサーチャー

2025年9月、北九州市に根ざして66年(当時)の歴史を持つオーリック株式会社の事業承継が実現しました。同社はクリーニング事業やレンタル事業を中心に、地域の衛生と快適な暮らしを支える地域密着型のインフラ企業です。子会社の株式会社サンレイ空調は、福岡市博多区に本社を構える空調設備工事業者で、自治体からも厚い信頼を得ています。

 

事業承継を検討していた代表取締役の門野氏がSearchファンドの趣旨に共感したことを受け、YMFGキャピタルは北九州市職員出身でサーチャーとして活動していた三浦一将氏を経営者候補として繋ぎました。両者は面談やインターンシップを重ねながら会社の将来像について意見を交わし、企業文化や創業家の想いを大切にしながら「100年企業」を目指すという方向性で一致しました。

 

こうして三浦氏はオーリック株式会社の専務取締役に就任し、門野氏とともに今後の経営承継に向けた準備を進めています。地方公務員出身者がサーチャーとして事業承継を実現したのは全国初の事例です。

 

オーリック株式会社 専務取締役 三浦様

北九州市職員からサーチャーへ転身し、サーチ活動を経て、地域のインフラ企業であるオーリックと出会いました。門野社長との対話やインターンシップを通じて、当社には優秀な社員さんが多いことに気付き、企業文化や雇用、そして創業家の想いを大切に守り抜くという決意を固めました。現在は専務取締役として経営承継の準備を進めております。地方公務員出身という異色の経歴ですが、地域への想いを胸に、オーリックを「100年企業」へと成長させるべく尽力してまいります。

5.地域の未来を共創する。次世代経営者とともに歩む事業承継の道

YMFGが2019年に日本で初めて取り組んだSearchファンド事業は、累計13社の事業承継を実現し、7年間にわたる実践を通じて確かなノウハウを蓄積してきました。後継者不在という構造的な課題は、もはや一企業の問題ではなく、地域経済全体の持続可能性を左右する重要なテーマとなっています。

 

Searchファンドは、経営者を志す人材に「経営者」というキャリアパスを提供すると同時に、社員の雇用を守り、培われてきた技術やノウハウを次世代へと継承する――地域企業の持続的な成長と地域経済の活性化の双方を同時に実現する、意義のある仕組みです。北九州市との連携協定や地域金融機関とのネットワーク構築といった取り組みの全てが、Searchファンドモデルを全国に広げ、日本全体の事業承継課題の解決に貢献するための重要な布石となっています。

 

創業者が築いてきた企業の歴史と文化を未来に引き継ぎ、社員とその家族の暮らしを守り、地域に根ざした事業を持続させること。それは、地域金融機関としての使命であり、地域とともに生きる企業グループとしての責任でもあります。

Searchファンドを通じて出会った経営者たちとともに、地域の豊かな未来を共創していく――その想いを胸に、YMFGはこれからも次の一歩を踏み出し続けます。