4年の研究会が結実。地域金融グループによるSIB事業実施

4年の研究会が結実。地域金融グループによるSIB事業実施

全国の多くの地方自治体では、住民の健康づくりといった「予防」に関する取り組みがすでに広く実施されています。一方で、人口減少などによる税収の縮小が続く中、こうした取り組みをさらに充実させ、継続的な効果につなげていくための投資や仕組みづくりについては、依然として多くの自治体に共通する課題となっています。健康づくりは将来の医療費の増大を抑えるうえでも重要であるものの、効果が徐々に現れる性質上、限られた財源の中で強化し続けることが難しく、こうした分野への投資はどうしても後回しにされがちです。このような状況が続けば、健康づくりの取り組みが十分に強化されず、将来的な医療費・介護費は膨らみ、自治体財政をさらに圧迫する可能性があります。

 

この課題を解決する手法として注目されているのが、成果に応じて報酬を支払う「PFS(成果連動型民間委託契約方式)」と、このPFSに外部の民間資金を組み合わせた「SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)」です。効果が客観的に確認できた場合に、行政が対価を民間に支払うこれらの仕組みは、財政負担を抑えながら社会課題の解決を目指せる新しい官民連携手法として、全国的に関心が高まっています。株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)は、こうした仕組みの普及と実装に向け、2021年から株式会社ドリームインキュベータ(DI)と連携し、「SIB研究会」を立ち上げ、地方自治体とともに知見の共有とネットワークの構築を進めてきました。設立当初10自治体からスタートした研究会は、2025年12月末時点で27自治体にまで拡大しています。

 

山口市「ずっと元気・PFSプロジェクト」において、YMFGの子会社である株式会社YMFG ZONEプラニング(YM-ZOP)が受託者として選定され、2025年9月より事業を開始しました。サービス提供事業者を取りまとめる受託者として地域金融グループが選定されるのは全国で初めてのケースです。

本記事では、研究会の立ち上げから全国初の受託に至るまでの道のりと、この取り組みが地域にもたらす社会的インパクトについてご紹介します。

1.地方自治体が直面する課題と、PFS・SIBの可能性

全国の自治体が財政難に直面する中、なぜPFS・SIBという新しい官民連携手法が注目されているのでしょうか。地方自治体が抱える構造的な課題と、PFS・SIBがもたらす解決の可能性を解説します。

財政難でも行政サービスは維持しなければならない

人口減少などを背景に税収が減少し、多くの地方自治体の財政状況は厳しさを増しています。一方で、行政サービスの需要が減ることはなく、むしろ増加する傾向にあります。中でも、高齢者の健康づくりや安心安全であるべき公共施設の予防保全といった「予防」分野への投資は重要だと認識されているものの、十分な予算を確保できていない自治体も多いです。

 

このように、予防の重要性は理解されている一方で、効果が将来に現れる取り組みについては、従来の制度や予算の枠組みの中で十分に対応しきれない側面もあります。こうした事情が重なり、予防への投資が進みにくい状況は、多くの地方自治体に共通して見られます。

国内におけるPFS・SIB事業の推進で実績を持つDIは、この状況を「行政は事前対応(予防)が重要であると分かっていても、構造的に顕在化していないものへの資金の手当てやノウハウの活用が難しい」と指摘しています。これが予防への投資が困難という構造的課題であり、多くの地方自治体が共通して抱える問題なのです。

SIBとPFS――成果連動型の官民連携手法

こうした、予防分野への投資が進みにくいという構造的な課題に対し、解決策の一つとして注目されているのが「PFS(Pay For Success:成果連動型民間委託契約方式)」です。PFSは、行政があらかじめ成果指標を設定し、その達成度に応じて民間事業者に報酬を支払う仕組みです。成果が上がれば民間事業者は報酬を得られ、成果が出なければ行政の財政負担は抑えられます。

 

「SIB(Social Impact Bond:ソーシャル・インパクト・ボンド)」は、このPFSの枠組みに民間資金を組み合わせた手法です。民間資金を活用し、事業者がサービス対象者に対して事業を実施します。事業の成果については、あらかじめ設定された成果指標や評価方法に基づいて確認され、その達成度に応じて自治体が成果報酬を支払う仕組みとなっています。

 

PFS・SIBは、社会課題の解決と行政の財政効率の向上を両立させる手法として近年注目されています。費用対効果が従来の委託事業と比較して明確で、民間の創意工夫を活用できる点が、財政状況の制約を抱える地方自治体から評価されています。一方で、導入にあたっては、制度設計や成果指標の設定、事業運営を担う主体間の連携など、一定の専門的な知見や調整が求められます。

2.YMFGが築いた「SIB研究会」という基盤

SIBの導入には専門的な知見とネットワークが不可欠です。しかしこうした基盤を持つ地域金融機関は、当時ほとんど存在しませんでした。YMFGはどのようにしてこの基盤を構築し、案件形成へと繋げたのでしょうか。

DIとの連携と地域金融機関初の「SIB研究会」

YMFGがまず着手したのは、この分野の第一人者との連携でした。2021年10月、YMFGは国内PFS・SIB分野の第一人者であるDIと「ソーシャル・インパクト・ボンドに関する連携協定」を締結します。DIは愛知県豊田市での介護予防事業やアジア最大規模のSIBファンド組成など、豊富な実績を持つ存在です。連携は段階的に深化し、2022年9月には、YMFG傘下の3銀行が、DIの運営する日本最大のSIBファンドと出資契約を締結。さらに2024年3月には「資本業務提携契約」へと発展し、戦略的パートナーシップを確立しました。

 

こうした強固な連携を基盤に、YMFGは次のステップへと進みます。2022年10月、YMFGの子会社YM-ZOPを運営主体として、「SIB研究会」を三都(山口・広島・北部九州)エリアで設立しました。設立時には10自治体が参加し、DIのノウハウ共有やPFS・SIB活用の事例研究を通じて、具体的な案件形成を目指しました。

研究会では事例研究を交えた勉強会を定期的に開催し、参加自治体はPFS・SIBの仕組み、導入事例、成果指標の設定方法などを学びました。こうした場を通じて、地方自治体はSIB導入の心理的・実務的ハードルを下げることができます。同時に、YMFGとDIは、地域のニーズや課題を深く理解する機会を得たのです。

 

研究会では、回を重ねる中で扱うテーマの幅を徐々に広げながら、内容も少しずつ実践的なものへと深めてきました。初期の段階では、PFS・SIBの基本的な仕組みや全国の先行事例を共有し、制度理解の基礎づくりを進めてきました。その後は、参加自治体が抱える課題や関心に寄り添いながら、成果指標の考え方や事業形成の進め方など、より具体的なテーマも取り上げるようになりました。

 

あわせて、国内で成果を上げている愛知県豊田市の取り組みについては、担当課長にも複数回ご登壇いただき、進捗状況や現場での工夫、実際に得られている成果などを直接お話しいただきました。こうした実例に触れる機会が増えていく中で、参加自治体の間には「自分たちの地域でも取り組めるのではないか」という前向きな機運が少しずつ高まっていきました。その積み重ねが研究会全体の理解を深め、のちの案件形成につながる下地づくりにも寄与していきました。

 

研究会の価値は、参加自治体の数が物語っています。設立時10自治体からスタートした研究会は、着実に成果を上げ、2025年12月末時点で27自治体にまで拡大しました。自治体間でのネットワークが広がり、先行事例の共有や課題解決のノウハウが地域全体に蓄積されていきました。

そして、研究会を起点に具体的な案件も生まれ始めます。2022年12月には広島県福山市がYMFGおよびDIと「ソーシャル・インパクト・ボンドの研究に関する連携協定書」を締結。さらに2025年7月には山口県美祢市が内閣府「令和7年度地方公共団体による成果連動型民間委託契約方式(PFS)に係る事業案件形成支援事業」に採択されました。

 

研究会を通じた地道な基盤づくりを背景に、具体的な案件形成へと動きが進みます。2025年7月、研究会に参画していた山口市が「山口市ずっと元気・PFSプロジェクトに係る業務委託」の公募を開始しました。YM-ZOPは、研究会で蓄積してきた知見や検討内容を踏まえ、DIの知見も参照しながら提案を取りまとめ、公募に応募しました。その結果、2025年8月にYM-ZOPが受託候補者として特定されました。本件は、サービス提供事業者を取りまとめる受託者として地域金融グループが選定された点において、全国で初めての事例となりました。

YMFGがSIBに取り組む意義

YMFGがSIBに取り組む意義は、地域が抱える課題を民間の力を活かして解決へと導く点にあります。民間資金を活用することで、これまで進めにくかった健康づくり分野の取り組みを促進し、将来的な医療費の増大による自治体財政の負担軽減につなげることができます。また、本事業を通じて地域企業が新たなサービスやプログラムを創出する機会が生まれ、事業者にとっての新たなビジネスチャンスにもつながります。SIBを活用した取り組みは、行政・金融機関・地域企業がそれぞれの強みを持ち寄りながら、地域の未来を支える持続可能な仕組みをつくることに寄与します。

3. 山口市「ずっと元気・PFSプロジェクト」――SIBで実現する高齢者のQOL向上

地域金融グループ初の受託となった山口市のプロジェクト。その全容と、この取り組みが地域にもたらす社会的インパクトを見ていきましょう。

総額1億円、5年間のプロジェクト――二重の社会的意義

本プロジェクトは、総額1億円、事業期間5年間(2025年9月30日〜2030年12月27日予定)という規模で実施されます。YM-ZOPがサービス提供事業者を取りまとめる受託者として、DIが組成したSIBファンドから資金調達を行い、民間資金を活用したSIB事業として運営します。DIは事業設計や包括的アドバイザリーを通じて、YM-ZOPの事業運営を支援しています。

 

プロジェクトの目的は、山口市内のヘルスケアや生活関連産業における市内事業者が連携し、山口市在住の65歳以上の高齢者を対象とした新サービスや魅力的なプログラムを創出することで、地域経済の活性化と、高齢者の社会参加促進を通じたQOL(Quality of Life)の向上という、二重の社会的意義を持っています。

「スポーツ・フィットネス」「娯楽・エンタメ」「健康教育」など、多様なプログラムが用意されています。現在14社が参加しており、今後も増加する見込みです。各社が高齢者の健康づくりや社会参加に繋がるサービスを提供しており、山口市内に本店または支店を有する15〜20社程度の事業者が月に1回以上継続的にサービスを提供する計画です。

 

成果報酬の仕組みも特徴のひとつです。サービス提供事業者はYM-ZOPと契約を締結し、サービス提供実績に応じて成果報酬を受け取ります。また、年に4回程度、全サービス提供事業者が集まり、市内の高齢者向けにサービスの紹介・体験ができるイベントを開催します。こうした取り組みにより、高齢者の参加を促進し、認知度向上を図っていきます。

 

株式会社YMFG ZONEプラニング
課長 吉川

SIB研究会の立ち上げ当初から、プロジェクトメンバーは自治体の皆様とともに“未来のあるべき姿”をどう具現化するかを模索してきました。対話の積み重ねによって、少しずつ自治体の皆様の期待が高まっていることを感じています。
本事業では、地域事業者の皆様の協力を得ながら試行錯誤を重ねており、地域課題に正面から向き合う日々ですが、プログラムにご参加いただく皆様の表情は明るく、楽しまれているのが印象的です。
これからも一つ一つの取り組みを積み重ね、高齢者の社会参加と地域事業者の活力が循環する社会を、山口市・DIとともに実現していきたいと考えています。

4.研究会から生まれ続ける、地域の豊かな未来

山口市でのSIB事業受託は、ひとつの節目となりました。

YMFGは、パーパス「地域の豊かな未来を共創する」を体現する存在として、「地域課題解決のプラットフォーマー」への進化を目指しています。山口市のプロジェクトは、金融機関として融資を提供するだけでなく、YM-ZOPによる構想段階からのコンサルティング、DIとの戦略的パートナーシップなど、地域金融グループとしての機能を活かした取り組みを進めています。SIB研究会を通じた対話の積み重ねが、こうした案件形成の基盤となりました。

 

YMFGとDIの連携は、SIB分野に留まりません。2025年8月には、山口県のGX戦略地域の選定に向けた「新事業創出・育成タスクフォース」にも参画し、産業振興と社会課題解決の両面で地域に貢献しています。さらに観光領域では、DIおよびエクスペリサス株式会社と連携して、地域資源を活かして高付加価値体験の創出と富裕層インバウンド誘客を推進し、2025年10月1日よりエクスペリサスで販売を開始しています。

 

人口減少、予防への投資が難しいという構造的課題は、全国の地方都市が共通して直面している現実です。研究会を通じて蓄積した知見とネットワーク、そしてPFS・SIBという新たな官民連携手法は、このような課題への取り組みの一つとして、YMFGの主要営業エリアである三都から全国へと広がり始めています。

地域の未来を、地域とともにつくる――その想いを胸に、YMFGは地域共創の取り組みを続けていきます。