GX時代の産業転換へ。山口県コンビナート再生「新事業創出・育成タスクフォース」に3社で参画
2050年カーボンニュートラル実現に向け、日本の産業構造は今まさに大きな転換期を迎えています。なかでも、石油化学や製鉄などの基礎素材型産業では、既存事業の構造転換と新たな産業の創出が急務となっています。
こうした課題に対応するため、国は2025年8月、コンビナート跡地や遊休設備などを活用し、新たな産業クラスター形成を後押しする「GX戦略地域制度」を創設しました。選定地域には予算措置に加え、規制・制度改革などの集中的な支援が行われ、世界で戦えるGX産業拠点の形成が期待されています。
全国有数の工業県である山口県は、瀬戸内海沿岸に「岩国・大竹」、「周南」、「宇部・山陽小野田」という3つのコンビナートが集積し、永年にわたり県経済を牽引してきました。山口県はGX戦略地域の選定を目指し「新事業創出・育成タスクフォース」を設置。株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)は、素材・化学産業に特化したベンチャーキャピタルのユニバーサル マテリアルズ インキュベーター株式会社(UMI)、株式会社ドリームインキュベータ(DI)とともに、構成企業として参画しています。
本記事では、GX戦略地域制度の概要、山口県コンビナートの現状と挑戦、そしてYMFGが参画する背景と今後の展望についてご紹介します。
1.GX戦略地域とは何か――国が進める産業立地政策の新機軸
GX戦略地域制度は、2025年2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」の方針を踏まえ、同年8月に産業立地政策の措置として創設されました。この制度は、個別企業単位の支援にとどまらず、地域全体を俯瞰した産業クラスター形成を促すものとして注目されています。
具体的には、コンビナート跡地や空きスペース、地域に偏在する脱炭素電源などを核に、GX型の産業集積を促進し「新たな産業クラスター」の創設を目指します。国内外の環境変化に伴って構造改革・生産能力最適化に取り組むコンビナート地域をはじめ、既存のブラウンフィールド(コンビナート跡地や空きスペースなど)を有効活用し、技術のスケールアップや生産拠点拡大を通じ、GX関連の新たな事業を生み出すことが期待されています。
制度は4つの類型に整理されています。地域選定を行う3類型として、①コンビナート等再生型、②データセンター集積型、③脱炭素電源活用型があり、これに加えて事業者選定を行う④脱炭素電源地域貢献型が設けられました。
選定された地域は、予算措置や規制・制度改革などの支援を受けながら、自治体と民間事業者が連携してGX型産業クラスターを形成していくことになります。①~③の地域選定に関する公募は2025年12月に開始され、2026年夏頃に最終選定される予定です。
2.山口県コンビナートの現在地と、GX転換への挑戦
山口県は基礎素材型産業に特化した全国有数の工業県です。瀬戸内海沿岸に広がる3つのコンビナートは、永年にわたり県経済を牽引してきました。そしていま、GX時代を迎える中で、これらのコンビナートは産業転換の最前線として、これまで以上に重要な役割を担おうとしています。
3つのコンビナートが支える山口県経済
山口県には、「岩国・大竹」「周南」「宇部・山陽小野田」の3地域にコンビナートが立地しており、いずれも特色ある産業構造を形成しています。これらの地域は、日本の基礎素材産業を支える重要な生産拠点となっています。
岩国・大竹地域では、石油精製・石油化学・製紙・繊維産業が集積し、原材料から最終製品まで一貫した生産体制を構築しています。
周南地域は石油化学・ソーダ・セメント・ゴム・鉄鋼を中心に多様な化学製品を供給する産業基盤を有しています。
宇部・山陽小野田地域には、石油基地・肥料・アンモニア・セメント・半導体ガス・鉄鋼など幅広い産業が展開し、エネルギーから先端材料まで多様な分野をカバーしています。
これらのコンビナートは、化学工業、石油石炭製品製造業、窯業・土石製品製造業を中心に、永年にわたり山口県の製造業の中核として地域経済を支えてきました。
すでに始まっているGX転換への挑戦
山口県のコンビナート企業では、GX転換に向けた先進的な取り組みをすでに進めています。その象徴的な事例が、県内企業によるセメント焼成時のアンモニア混焼実証です。これは、商業規模の実機設備を用いた世界初の実証試験であり、国内外から大きな注目を集めています。
このほかにも、ケミカルリサイクル、CO₂分離膜、CO₂回収・原料化設備、化学工場でのアンモニア燃料利用など、脱炭素化に資する技術開発が活発に進んでいます。これらの取り組みは、化石燃料依存からの脱却と、新たな価値創造の両立を図るうえで極めて重要な挑戦といえるでしょう。
さらに、こうした企業の挑戦を力強く支えているのが、産学公金で構成する「山口県コンビナート連携会議」です。同会議では、カーボンニュートラル実現に向けた将来像を低炭素化構想により共有し、企業と自治体が一体となった取り組みを推進しています。こうした協働の土壌が整っているからこそ、今回のタスクフォース設置が実現しました。
3.なぜYMFGがタスクフォースに参画するのか
山口県はGX戦略地域の選定に向けた検討を一段と加速・深化させるため、「新事業創出・育成タスクフォース」を設置しました。構成企業として参画したのは、YMFG、UMI、DIの3社です。
この3社の組み合わせは、それぞれが持つ専門性を掛け合わせ、山口県のGX転換を多面的に支援するための最適な体制といえます。金融・VC・戦略コンサルという異なる強みが連携することで、将来目指す姿などの策定から事業創出、事業成長まで一気通貫で伴走できる“実行力のある支援スキーム”が形成されました。
3社それぞれが担う役割
新事業創出・育成タスクフォースは山口県コンビナート連携会議の下に設置されたワーキンググループです。主な所管事項は、GX戦略地域や国家戦略特区の選定に向けた提案内容の検討、GX型新事業創出やスタートアップ企業の誘致・育成などの方策の調査・検討となっています。
3社はそれぞれ異なる専門領域を持ち寄り、相互補完的な体制を構築しています。
UMIは素材・化学産業に特化したベンチャーキャピタルとして、マテリアルスタートアップの育成や、大学・研究機関・スタートアップ・大企業連携のプラットフォームを担っています。特に山口県の基礎素材型産業との親和性が高く、技術革新と事業化の橋渡し役として期待されます。
DIは、新たな事業や産業の創造・成長支援に強みを持つビジネスプロデュースを通じて、数千億円規模の新事業創出を推進してきました。現状の産業区分や法制度の枠を超え、産業や社会の在り方そのものを再設計するビジネスプロデュースの経験を活かし、山口県の新しい産業創出を支援します。
そしてYMFGは地域金融グループとして、地域の産業基盤を熟知し、企業との幅広いネットワークを有しています。永年にわたり山口県の産業発展を金融面から支えてきた実績と、地域の実情を深く理解した視点が、実効性の高い施策立案に貢献することが期待されます。
タスクフォース(Task Force)とは?
タスクフォースとは、特定の課題を解決するために一時的に編成される専門チームのこと。語源は軍事用語で「特定の任務を遂行するために編成された部隊」を指します。ビジネスや行政の場面では、通常の組織体制だけでは対応しきれない課題に対処するため、各部門や外部から専門性の高い人材を集めて結成されます。目的達成後は解散するのが一般的です。
「地域課題解決のプラットフォーマー」としての参画
YMFGは、地域のお客さまが抱える課題解決に留まらず、地域全体を俯瞰し「面」の視点での課題解決にも取り組む「地域課題解決のプラットフォーマー」を目指しています。本タスクフォースへの参画は、YMFGが掲げる12のマテリアリティのうち「地域におけるイノベーション創出、地域産業の成長サポート」の実現に資する取り組みです。
従来の金融機関が担ってきた融資による支援からさらに一歩踏み込み、地域産業の構造転換そのものに関与することは、より根本的な課題解決に挑む姿勢の表れです。
タスクフォースの活動を通じて、山口県の産業創出やGDP向上を目指した施策の方向性を示すとともに、山口県産業の国際競争力の維持・強化に貢献していきます。
株式会社山口フィナンシャルグループ
地域共創室 副部長 松本真治
YMFG中期経営計画(2025年度〜2029年度)では、これまでのようなファイナンスによる側面支援に限定せず、エクイティやソリューションを複合的に組み合わせた総合的な支援により、当事者として"同じ舟"に乗り課題解決型の付加価値を地域社会に還元する「同舟共命型ビジネスモデル」を体現していきます。
今回のGX戦略地域で組成されるプロジェクトでは、地域企業や自治体と検討を重ね、ファイナンスのみでなくさまざまなソリューションを提供することで、共にプロジェクトを作り上げていく姿勢で貢献したいと考えています。
4.地域の産業転換を、金融の力で支える
2025年8月27日、タスクフォースを構成する3社と村岡嗣政山口県知事との意見交換会が山口県庁で開催されました。YMFGからは椋梨敬介代表取締役社長CEO、UMIからは木場祥介代表取締役パートナー、DIからは三宅孝之代表取締役社長が出席し、GX戦略地域選定に向けた具体的な取り組みや、将来目指す姿などの方向性について議論を交わしました。
この先進的な取り組みは、NHK山口、山口放送、山口新聞、日本経済新聞など複数のメディアで報道され、地域金融グループが産業転換の推進体制に参画する意義に注目が集まっています。
新事業創出・育成タスクフォースは今後、コンビナートエリアを核とした県内全域におけるGX型新事業創出やスタートアップ企業などの誘致・育成に向けて、GX戦略地域や国家戦略特別区域といった諸制度を活用した投資促進や事業環境整備の方策を調査・検討していきます。これは単なる制度活用に留まらず、山口県の産業構造そのものを次世代型へと転換していく壮大なプロジェクトといえるでしょう。
GX戦略地域の公募は2025年12月に開始され、2026年夏頃に選定結果が公表される予定です。YMFGは、UMI・DIとともに、山口県における産業創出やGDP向上を目指す施策の方向性を示し、山口県産業の国際競争力の維持・強化に貢献していきます。
地域金融機関として永年にわたり地域経済を支えてきたYMFGが、今度は産業転換の当事者として「同じ舟」に乗り、地域の豊かな未来を共創する。
その新たな挑戦が、山口県から始まろうとしています。