女性管理職1.2%からの挑戦。YMFGが変えた組織の「当たり前」
多くの企業、とりわけ歴史ある組織では、配属やキャリア形成の場面において「見えないジェンダーギャップ」が存在することがあります。株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)も例外ではなく、2022年3月時点での女性管理職比率は、わずか1.2%に留まっていました。銀行業務が高度化し、多様な視点から価値を生み出す力が求められる今、女性活躍推進は組織の持続的成長に向けて不可欠な取り組みです。
こうした状況を受け、YMFGは2022年度より女性活躍推進を本格化させました。手探りながら、一面的な取り組みでとどめないよう、複数の階層に向けたアプローチを検討しました。経営層・管理職層には「無意識の偏見」に向き合うアンコンシャス・バイアス研修を実施。一方、女性社員にはキャリア形成を支援する「YMFG Women's Day」を開催しました。各層に合わせた複数の施策を組み合わせることで組織全体の意識変革を促し、女性管理職比率は2025年11月には9.7%へと大きく上昇——わずか3年余りで約8倍という飛躍的な伸びを実現しました。
本記事では、こうした変化の出発点となった課題と、YMFGがどのように組織の「当たり前」を変えてきたのかをご紹介します。
1.新卒配属に現れた「見えない偏り」
YMFGは女性活躍推進に取り組む中で、既存社員は男性と女性で役割に大きな偏りがあることを認識していました。では、新卒社員の配属はどうだろうか。そうした問題意識から、ある年の新卒社員の配属状況を詳しく調べてみたのです。
入社時の男女比はほぼ同じで、求める役割にも差はありません。しかし、実際の配属状況を確認すると、女性社員は窓口業務やリテール部門に男性社員は貸付業務や法人営業に多く配置されているという傾向が見られました。この偏りは、意図的なものではなかったでしょう。しかし結果として配属に偏りが出ているということは、性別による役割の固定化が無意識のうちに行われているのではないか。そうした仮説が浮かび上がります。
YMFGはここで、「無意識の偏見」という課題に着目しました。この偏見は、管理職層だけが持つものではありません。係配置の裁量を持つ支店長をはじめ、YMFGで働く社員全体に、「これは男性の仕事」「これは女性の役割」といった無意識の偏見が根づいていた可能性があります。
金融業界では長年、女性の総合職が少ない状況が続いていました。そうした歴史が、組織文化に影響を与えていたのでしょう。キャリアの入り口である配属の段階で偏りが生じれば、その後の育成機会やキャリア形成にも大きな影響が及びます。
2.上司の「無意識の偏見」に向き合う、アンコンシャス・バイアス研修
役割における偏りを解消するには、育成や係配置の裁量を持つ支店長をはじめとする管理職層の意識とコミュニケーションの在り方を変える必要があります。そこでYMFGが着目したのが、「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」でした。
社員のキャリア形成には、横軸(幅広い職域経験)と縦軸(昇格・昇進)の両方を伸ばす機会が公平に与えられることが重要です。しかし、無意識の偏見が働くと、与えられる機会そのものが偏ってしまうでしょう。部下の一番近くで育成に携わる管理職が、自らの判断を見直し、フラットな意識を持って部下と向き合えるように、YMFGはアンコンシャス・バイアスへの理解を深める取り組みを始めました。
アンコンシャス・バイアスを理解し、行動を変える研修
YMFGは、チェンジウェーブグループが提供するeラーニング「ANGLE」とワークショップを組み合わせたアンコンシャス・バイアス研修を実施しました。特徴的なのは、「バイアスそのものを否定しない」という考え方です。誰もが持つ無意識の偏見を「悪いもの」として否定し排除しようとするのではなく、まずは自分の傾向を理解し、そのうえでより良い行動にどう繋げるかを考えます。
ANGLEでは、目に見えない自分のアンコンシャス・バイアスの度合を定量的に把握できます。この客観的なフィードバックは、多くの管理職層に大きな気付きをもたらし、研修受講後には具体的な行動変化が見られ始めました。
例えば、「これはバイアスかもしれないけど」と前置きをして対話を深める支店長が増えたり、研修内容を自らの支店で共有する支店長が増えたりと、日常のコミュニケーションで変化が生まれています。ある会議では、「実際、今、この場所にも女性は1人だけだね」と発言する管理職も。今までは当たり前だったいつもの風景への疑問が自然と生まれるようになりました。
3.女性社員約100名が参加。「YMFG Women's Day」が生んだ変化
管理職の意識改革と並行して、YMFGは女性社員向けのさまざまな施策を展開しています。法人渉外未経験の女性社員を対象とした「女性法人渉外ジョブトライアル」では、必要な知識やスキルを無理なく得られるようサポートを受けながら、段階的に業務を経験する機会を提供。女性管理職向けには「なでしこ塾」という社内女性管理職ネットワークを設立し、学びや情報交換、交流を通じてお互いを高め合える場を提供しています。
女性社員のキャリア形成を後押しする、数ある取り組みの中でも代表的なものが女性社員向けのエンパワメント・セミナー「YMFG Women's Day」です。2025年には第4回を迎えたこのイベントは、毎回約100名の女性社員が参加し、「前向きなキャリア形成」と「ネットワーキング」を目的に実施されています。
ワークとラウンドテーブルで広がる視野とネットワーク
参加者は、自身の強みの言語化やライフキャリアをデザインするワークに取り組みます。部署や役職を超えた縦・横・斜めのネットワークを構築し、お互いに刺激を与え合う場となりました。
地域を限定して働く社員も多く、所属する支店内だけでは同じ志を持つ人が少ない、または視野を広げられる機会が得にくい場合があります。だからこそ、このような繋がりは参加者にとって貴重な刺激となり、視野を広げるきっかけになっています。
イベントの目玉となったのが、グループの役員や部長層とのラウンドテーブルです。社長も頭取も役員も、実際に参加者のテーブルについて自分の体験や考えを話します。「異次元の偉い人」ではなく、自分たちと繋がった場所にいる人なんだという気付きが生まれる場となり、女性社員のキャリア形成に対する意識や道筋のイメージがより現実的なものに変わりました。
「自分も期待されている」「挑戦していいのだ」というメッセージが、参加者に届いた瞬間でした。
内に秘めていた意欲が、表に出てきた
Women's Day以前は、キャリア・アップへの意欲を表に出す女性社員は少ない状況でした。しかしイベント後、想定以上の反応があり、「キャリア形成に前向きになれた」「部署を超えて高め合える仲間ができた」といった声が数多く寄せられました。キャリア・アップについての意欲が高まっている、もしくは内に秘めていた意欲が表に出てきている。そうした変化が明確に現れています。
4.1.2%から10%へ。数字が示す、組織変革の手応え
YMFGの女性活躍推進の取り組みは、わずか数年で大きな成果となって表れています。2022年3月時点で1.2%だった女性管理職比率は、2025年度末には10%へと大きく伸長しました。わずか3年余りで約8倍という飛躍的な成長です。
かつてないスピードでの女性管理職登用は、社員にも経営陣の本気度を伝えることになりました。この急速な変化は、YMFG内部だけでなく社外からも注目を集め、メディアで取り上げられる機会も増えました。
「女性活躍推進に係る基本方針」が示す3つの柱
YMFGの女性活躍推進は、「女性活躍推進に係る基本方針」に基づいて展開されています。この方針では、組織文化や働き方を見直すための3つの重点項目を設定し、取り組みを進めています。
1つ目は、性別ではなく各人の能力・適性に応じた業務への配置。男女間で固定化されてきた暗黙の役割分担を解消し、一人ひとりの能力・適性に応じた配置を推進することで、女性社員の職域拡大・キャリア選択の幅の拡大に取り組んでいます。
2つ目は、各人の人生設計・キャリア意識に応じた働き方の柔軟性の向上。フレックスタイム制の導入や育児休業の取得支援、独自の短時間勤務制度の活用促進など、家庭と仕事の両立を支援しています。配偶者の転居に伴い勤務地域を変更できるパートナー制度の導入や、マイリターン制度といった人事制度も整備しました。
3つ目は、管理職の意識改革。成長支援意識の醸成と業務分担にかかる固定観念の排除を進め、管理職層の意識改革を推進することで、整備した各制度が実効性を持つことを目指しています。
加えて、男女問わない育児参画促進にも力を入れています。育休取得説明会兼パパママ講座の開催、本人や上司に宛てた社長レター、管理職向けガイドブック配布などの啓発活動。さらに、育児休業を取得した社員の職場の同僚に対する育休サポートサンクスギフトといった取り組みを実施しました。その結果、男性社員の育休取得率は100%を維持し、平均育休取得日数は29日以上まで延伸しています。
2030年15%目標に向けた、継続的な取り組み
YMFGは、次世代育成支援対策推進法および女性活躍推進法にかかる一般事業主行動計画を策定しています。
目標として掲げるのは、営業部門および非金融部門で活躍する女性比率の向上、管理職に占める女性社員比率10%以上。さらに、フレックスタイム制などの柔軟な働き方の環境整備により、所定外労働時間を一月平均10時間以下に削減します。将来的には、男女問わず育児休業100%取得、および1か月以上の育休取得を目指しています。
そして2030年3月末までに、女性管理職比率を15%へ引き上げる目標も掲げました。
5.多様な人財が創造性を発揮する、これからの組織へ
YMFGの女性活躍推進が成果を上げた要因は、個別の施策ではなく、各層に合わせた施策を組み合わせたことにあります。管理職層には「無意識の偏見」に向き合うアンコンシャス・バイアス研修を実施し、上司の意識改革を進める。同時に、女性社員には「YMFG Women's Day」でキャリア形成を支援し、エンパワメントとネットワーク構築を促す。この両輪が相乗効果を生み出し、組織全体の変革に繋がりました。
しかし、管理職の多くは依然として50代男性社員が占めており、今後同じタイミングで退職を迎えます。銀行業務が変化し創造性を求められる中、多様な人財の育成は待ったなしの状況です。女性社員の個人のマインドセットは変化してきましたが、組織風土そのものを変えていくには、継続的な学びとフォローが不可欠でしょう。
YMFGは今後も女性活躍推進に取り組み続けますが、組織課題に対応し、施策の種類や内容については柔軟に変化させていく予定です。多様な視点や能力を持った人財が創造性を発揮できる組織を目指して、YMFGの挑戦は続いていきます。
株式会社山口フィナンシャルグループ
人財支援部 副調査役 林田あゆみ
女性活躍を始めた当初は、男女とも戸惑いの声が多くありましたが、この3年間で前向きに機会を活かす社員が増え、"当たり前"の基準も変化してきたと実感しています。女性活躍ではなくジェンダーギャップの解消こそ本質と考え、性別に左右されず一人ひとりがありたい姿を実現し、企業のパーパスと自己実現が両立する組織を目指します。