10年で1,000億円の地域価値創出へ。数値で示すYMFGの地域共創モデル

10年で1,000億円の地域価値創出へ。数値で示すYMFGの地域共創モデル

ESG投資において、地域金融機関の非財務価値をいかに評価するか──この課題に対し、株式会社山口フィナンシャルグループ(YMFG)は先進的なアプローチに挑戦しています。2025年、統合報告書で掲げた「10年で累計1,000億円の経済的インパクト創出」という数値目標は、地域貢献活動を評価測定可能な地域貢献価値として可視化する新たな試みとして投資家の注目を集めました。

 

その基盤となるのが、「インパクト加重会計」の手法を参考とした非財務領域の可視化、そして地域金融機関初となるYMFG独自の算出モデル「地域との経済的インパクト」です。本モデルは、地域のステークホルダーと連携して創出した経済的インパクトを金額換算することで、従来定性的に語られがちであった地域貢献を、投資判断に用いうる指標へと転換しています。すでにこの手法により、山陽小野田市LABVプロジェクトで87億円、長門湯本温泉再生プロジェクトで13億円、合計100億円の経済的インパクトを算出。融資を中心とした従来型の金融モデルから脱却した「同舟共命型ビジネスモデル」により、地域企業と事業リスクを共有する新たな金融機関像を構築しました。

 

この革新的な取り組みは、地方創生に取り組む企業や自治体にとっても再現性のあるモデルケースとして期待されています。本記事では、なぜYMFGが1,000億円という目標を設定したのか、どのような手法で経済的インパクトを測定するのか、そして投資価値の向上と地域価値創造をいかに両立させているかを詳しく解説します。

インパクト会計:企業が生み出す社会的インパクトの定性・定量の評価手法の総称(一般的に使われる広義のインパクト加重会計を含む)

インパクト加重会計: 企業の事業活動や提供製品/サービスが社会や環境にもたらす社会的インパクトを、プラスとマイナスの両面から総合的に金額に換算する手法。製品/サービス・雇用・環境の社会的インパクトを対象として売上収益・EBITDAとの比率を算出することで、自社の経年変化だけでなく、他社・他製品/サービスとの比較などに利用することが可能。(ハーバード・ビジネス・スクールのインパクト加重会計イニシアティブ(IWAIプロジェクト)で創出された概念であり狭義)

1.なぜ1,000億円なのか?数値目標設定の背景

「企業価値の過半は非財務資本、あるいは無形資産に依拠する」。早稲田大学大学院会計研究科客員教授の柳良平氏はこう指摘します。YMFGにとって、極めて重要な非財務資本は「人財」です。財務諸表には表れない”見えない価値”を可視化し、投資家をはじめとするステークホルダーに示すことは、上場企業としての重要な責務といえます。それは人財に限らず、地域への貢献度においても同様です。しかし従来、地域への貢献度を客観的かつ定量的に示すことは困難とされてきました。

 

地域金融機関は、預金・貸出など事業内容が類似して見えやすく、差別化が容易ではありません。加えて、地域共創やまちづくりといった取り組みは、短期的な収益として成果が顕在化しにくいという特性があります。その結果、時間の経過とともに、ステークホルダーの間で「自分たちの取り組みは本当に地域のためになっているのだろうか」という不安や疑問が生じがちです。YMFGも例外ではなく、パーパス「地域の豊かな未来を共創する」の本気度および実現度を客観的に測定できる指標が求められていました。

 

この課題に対する解決策が、「インパクト加重会計」の手法を参考にした非財務領域の可視化、そしてYMFGが独自に構築した算出モデルである「地域との経済的インパクト」です。YMFGは本モデルを用いて、「5年で累計300億円、10年で累計1,000億円の経済的インパクト創出」という具体的かつ検証可能な数値目標を設定しました。数値によるコミットメントにより、地域のさまざまなプレイヤーを説得力をもって巻き込むことができ、また投資家との情報の非対称性も解消できると考えています。

2.地域金融機関初となるYMFGの独自算出モデル「地域との経済的インパクト」

「5年で累計300億円、10年で累計1,000億円の経済的インパクト」は、どのような手法で算出されたのか。YMFGが産学連携で構築した、地域金融機関初の独自算出モデルを詳しく解説します。

「地域との経済的インパクト」とは何か──産学連携による独自モデル構築

YMFGの独自算出モデルは、早稲田大学大学院会計研究科客員教授の柳良平氏が監修しました。柳氏は2019年、日本発の試みとして、企業のESG活動のKPIと企業価値の代理変数としてのPBR(株価純資産倍率)の相関関係を重回帰分析によって検証する「柳モデル」を始動。現在では約100社の企業に採用されています。

 

YMFGは山口大学との連携のもと、「インパクト加重会計」の手法を参考に、独自算出モデル「地域との経済的インパクト」を構築しました。これは、地域と共に創り上げたプロジェクトが地域に与えた影響を定量的に算出するものであり、「エンパワメント:関係者の無償活動の価値」「プロモーション:視察や観光客増加による波及効果」「地域価値向上:地価上昇などの地域資産価値の増加」「地域経済活性化:店舗集積などの二次波及効果」の4つの要素から構成されています。

 

柳氏はこのモデルについて、「単なる経済効果だけでなく、関わった人々へのエンパワメント、社会貢献への意思、一言で言えばインパクト投資の要諦であるintentionality、つまり『魂がこもっているか否か』を測定する試み」と評価しています。

3.100億円の算出。2つのプロジェクトが示す成果

YMFGはこれまでに2つの大型地域共創プロジェクトで、合計100億円の経済的インパクトを算出しました。いずれも自治体や地域企業と事業リスクを共有し、まさに"同じ舟"に乗ることで、融資・エクイティ・ソリューションを複合的に組み合わせた総合的な支援を行う「同舟共命型ビジネスモデル」によって実現したプロジェクトです。

全国初のLABV(Local Asset Backed Vehicle:官民協働開発事業体)を活用した山陽小野田市まちづくりプロジェクトで87億円、老舗旅館の事業承継を実現した長門湯本温泉再生プロジェクトで13億円。この100億円は、10年目標1,000億円の10%に相当し、目標達成への確かな一歩となっています。

山陽小野田市LABV(87億円):全国初の官民連携モデル

2018年から山口銀行と株式会社 YMFG ZONEプラニング(YM-ZOP)が共同で検討を開始したプロジェクトです。商工センターの老朽化と山口銀行小野田支店跡地の利活用という課題を、LABVという新しい官民連携手法で解決しました。

2024年4月、複合施設「A-SQUARE」が開業し、県内でも例の少ない基準地価上昇を記録するなど具体的な成果が現れています。2023年2月には内閣府地方創生推進事務局長賞(最上位)を受賞しました。詳細は以下の記事をご覧ください。

長門湯本温泉再生(13億円):約600年の歴史を持つ温泉街の再生

2017年から長門市と連携し、約600年の歴史を有する温泉郷で、創業120年の老舗旅館「六角堂」の後継者不在という課題に取り組みました。

2025年3月、複合施設「SOIL Nagatoyumoto」として開業。温泉街と繋がる宿として、施設内で完結せず地域全体への循環を重視した設計が特徴です。詳細は以下の記事をご覧ください。

4.1,000億円目標が描く投資価値と地域価値の好循環

YMFGが掲げる「10年で累計1,000億円の経済的インパクト創出」という目標は、単なる地域貢献の指標ではありません。パーパス「地域の豊かな未来を共創する」の本気度と実現度を測り、投資家をはじめとするステークホルダーに示すための挑戦です。

 

では、なぜ地域への貢献が企業価値向上に繋がるのでしょうか。その鍵となるのが、「地域との経済的インパクト」による非財務価値の可視化です。従来見えなかった価値を定量化することで、投資家との情報の非対称性を解消し、投資判断の新たな材料を提供できると考えています。柳氏は「インパクトと企業価値の関係は、まだまだ研究途上です。私はImpact Journeyと呼んでいますが、非財務資本を可視化する旅はまだ始まったばかり」と語ります。

 

この取り組みは、社内にも好循環を生み出しています。YMFGは、従業員に対するインパクトとして154億円を算出しており、人財投資効率は65%超と日本企業の中でもトップクラスの水準にあります。YMFGの地域貢献活動の成果が外部から評価されることで、社員の誇りとモチベーションが高まり、さらなる価値創出へと繋がっています。

 

柳氏は「日本企業のPBRは過小評価されている」と指摘します。人的資本の価値や社会貢献の度合いを可視化・定量化するYMFGの取り組みは、地域金融機関の適正評価に向けた新たなスタンダードを示す試みといえるでしょう。

地域の未来を、地域とともにつくる──その想いを胸に、YMFGは次の地域共創プロジェクトへ歩みを進めていきます。

 

株式会社山口フィナンシャルグループ
地域共創室 上妻正享

当社の地方創生の取り組みは一定の評価をいただく一方、非財務分野に属するため、成果の多くを社内外に伝えづらいという課題がありました。そこで、独自の算出ロジックの構築に挑戦し、2025年5月に公表いたしました。10年で1,000億円という大きな目標に向け、社員の思いを束ね、地域とともに豊かな未来を共創してまいります。

5.地域価値創造で切り拓く、地域金融の新たな未来

YMFGが掲げる「10年で1,000億円の経済的インパクト創出」という目標は、地域金融機関の新たな可能性を示す挑戦です。「インパクト加重会計」の手法を参考に構築した独自算出モデルにより「見えない価値」を数値化し、投資家をはじめとするステークホルダーに新たな評価軸を提示することを目指しています。また、事業リスクを地域と共有する「同舟共命型ビジネスモデル」による単なる融資に留まらない総合的なサポートは、地域課題解決における金融機関の役割の新たなスタンダードとなりつつあります。

 

山陽小野田市LABVプロジェクトや長門湯本温泉再生プロジェクトをはじめ、YMFGは多様なプロジェクトで地域との価値共創を実現してきました。これらの実績は、ESG投資時代における地域金融機関の差別化戦略として、また日本企業が抱える「非財務価値の過小評価」という課題に対する先駆的な解決策として注目されています。

 

パーパス「地域の豊かな未来を共創する」の実現に向け、YMFGは数値という客観的指標を備え、地域と共に持続可能な成長モデルの構築を目指しています。